家禽製品および野鳥を通した高病原性鳥インフルエンザの越境性拡大
Transboundary spread of highly pathogenic avian influenza through poultry commodities and wild birds: a review
(仮訳)鹿児島大学 岡本嘉六
要旨
H5N1型高病原性鳥インフルエンザ (HPAI) ウイルスの広範な循環は、それが及ぼす動物とヒトの健康への影響に関して、未知の分野における広範な研究およびこの感染症についての我々の理解の再査定へと導いた。さらに、広範な家禽の感染は、この感染の食品の安全性および貿易関連事項に係る懸念を引き起し、国際貿易規則の改定を余儀なくさせた。野鳥の役割が大いに議論され、感染の拡大に果たす役割を明確にするため資材が投資された。それまで発生がなかった地域への最初に持ち込みに野鳥が関与していることは、今や明確である。今のところ、HPAI 感染が野鳥集団で長期間維持されるかどうかは、まだ明確でない。本文は、家禽と家禽製品を介したHPAIの国境を超える拡大に関する既存の知見を総括し、野鳥を介した拡大の証拠を要約する。
キーワード: 鳥インフルエンザ、家禽製品、野鳥
緒言
H5N1型高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルスの前例のない世界的広がりは、これらのウイルスの生態、疫学、宿主域および病原性を含めて、これらのウイルスに関して知られている事項の再検討を余儀なくさせた。H5N1の世界流行以降に持ち上がった一つの主要な懸念は、家禽および関連製品の貿易に及ぼすHPAI感染の負の影響である。鳥インフルエンザ(AI)が国内に侵入して拡大する機序は、非常に複雑であり、多くの要因が絡む経過の結果である。AIの伝播と拡大に関わる要因には、ウイルスの特性(病原性、化学的および物理的因子に対する抵抗性、遺伝子群)、感染した動物種とそれに由来する製品、ウイルスが侵入した地域における家禽の密度、家禽業界の相互関係、ならびに野鳥の飛来コースの存在が含まれる。
2000年以前は、AI 感染は動物疾病の中で重要性が低い感染症とみなされていた。高病原性鳥インフルエンザは、散発的疾患であり、それと戦うために直接的対策だけが適用可能であった。また、発生が限られていたため、ヒト健康に及ぼす影響についてはほとんど知られていなかった(13)。
HPAIの疫学に関する既存の定説は、H5N1 HPAIの世界流行によって挑戦を受けている。大陸間に広がること、哺乳類を含めて様々な動物種に感染可能なこと、野鳥の死亡を引き起こすこと、ならびに変異し野外に定着する能力などのH5N1株の能力は、H5N1 HPAI感染をウイルス学的時代における極めて新規なもとし、その他のHPAI株の感染と非常に異なるものとしている。
このウイルスによって引き起こされた世界流行の展開は、AIの疫学のいくつかの側面についての科学的情報の欠如およびそれらを研究する緊急の必要性を浮き彫りにした。相当の資源(発生動向調査、研究および訓練のための)がこの全世界の感染症と戦うために利用可能とされてきており、得られた知見は予防接種を含め、それに合った制御戦略の策定を促してきた。
それに加えて、アジア、アフリカおよび欧州全体におけるH5N1 HPAIの発生は、ヒトの消費を目的とした家禽製品の安全性、ならびに残飯給餌、捕食、ごみ場あさり等を介して動物が感染するリスクについての懸念を持ち上げた。
家禽製品を介しての感染と拡大の食品媒介性伝播は、その製品に生きているウイルスが存在し、宿主に対する最小感染量以上の濃度である場合にのみ起き得る。
現在の欧州連合(EU)の法令は、指定リストの国からの家禽製品の輸入を許可し(21)、「家禽」の定義(19)を、繁殖と再放野を目的とした捕獲あるいはヒトの消費を目的とした肉や卵の生産のために飼育されている鶏、七面鳥、ホロホロチョウ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、ハト、キジ、ヤマウズラ、走鳥類(ダチョウ、エミューなど)としている。
国際獣疫局(OIE)は、陸生動物衛生規約に家禽および様々な家禽製品の安全な国際貿易のための勧告を公開している(41)。陸生動物衛生規約は次の様に家禽を定義している。ヒトの消費を目的とした肉や卵の生産、その他の市販製品の生産、狩猟用の再放野、それらの鳥の繁殖、ならびに、あらゆる目的の闘鶏のために飼育される庭先飼育を含めた全ての飼育鳥。まら、「製品」を、「生きている動物、動物由来製品、動物遺伝物質、生物学的製剤、病理学用材料」と定義し、「食肉」を「食用とする動物の全ての部分」と定義している(41)。EUの法令のように、陸生動物衛生規約は、OIE基準に準拠して通知を要する鳥インフルエンザが清浄な国、地域または区画(compartment)から供給される限り家禽製品が安全に取引できると勧告している(41)。
本文は、家禽製品(EUとOIEの家禽の定義を使用)における鳥インフルエンザ ウイルス(AIV)の存在およびAIの国際的拡大媒体としての野鳥の役割に関する既存の情報を要約する。それに加えて、さらなる調査を必要とする地域を取り上げる。表Iは、引用した研究論文に示されていた情報の詳細である。
予防接種されていない生きた家禽
動物のその他の感染症が感染した動物の移動によって広がるのと同様に、HPAIも感染した家禽の移動によって拡散し得る。家禽の移動は、それまで発生がなかった国へ侵入する国境を越えて広がる手段として記録されている。HPAIと診断されると移動制限が適用されるので、臨床症状が出る前の段階が感染を広げ易い。生きている鳥の移動を通してHPAIが国境を越えて広がった記録のある唯一の事例は、オランダ、ベルギーおよびドイツで2003年に発生した。
養鶏場にHPAIが侵入するリスク要因の研究(37)は、採卵鶏農場がその他の家禽農場よりも外部の物資や人間との接触が多いという証拠から、採卵鶏農場のリスクがその他の家禽を飼育している農場より高いことを示した。また、採卵鶏農場はその他の家禽農場とよりも別の採卵鶏農場との接触が多いためかも知れない。しかし、この仮説はさらなる検証が必要である(18)。
予防接種された生きた家禽
適切なワクチンを用い、生物学的安全管理の指針を遵守した予防接種は、ほとんどの動物種で臨床症状を抑えるが、ウイルスの排出を防げないことがある。したがって、予防接種したかそれに暴露された鳥は、潜在的な感染源とみなさなければならない。理論的には、それを克服するために、DIVA(予防接種した動物と野外株感染動物との識別法)に基づく適切な監視システムの適用を通した野外株ウイルスに暴露された鳥から予防接種した鳥を識別することは可能である(12、14)。実際には、この方法は野外で決して適用されて来なかったし、管理の観点から非常に複雑である。ウイルス循環の不在が証明されない限り、予防接種した鳥は感染を運ぶ可能性があるので、取引してはならない。
(つづく 2011/12/5)
生きている鳥以外の製品における高病原性鳥インフルエンザウイルス
肉
鳥の骨格筋におけるAIVの存在を報告した文献の大半は、感染によって生じた病理組織学的病変を扱ったものである。免疫組織化学的手法によってAIVを検出した実験報告が1980年代末にあるが、H5N1ウイルスが出現して以降にのみ、家禽肉が公衆衛生上のリスクとして受け取られ、この分野に的を絞った研究を促した。
アヒルの分離されたH5N1 HPAIウイルス株が筋肉組織に定着する能力が、4週齢のSPF(特定病原体未感染)鶏を用いて査定された(39)。鼻腔内接種後、胸筋を採取して調べると、感染後2日目と3日目に陽性であることが分かった。別の2つの実験報告は、3〜4 週週齢のSPF鶏の筋肉にH5N2とH5N3 HPAIウイルスが存在することを示した(26、36)。
ミラードアヒルはどのようなものですか?
わずか一つの実験研究が七面鳥の肉におけるAIVの存在を報告している(38)。予防接種した七面鳥と接種していない七面鳥にH7 HPAIと低病原性トリインフルエンザ(LPAI)ウイルスを接種した。予防接種した後HPAI株またはLPAI株で攻撃した例から採取したサンプルは、生きているウイルスをいずれも含んでいなかった。予想通り、予防接種せずにHPAI株で攻撃した鳥から採取した肉は大量のウイルスを含んでいた。
表I.家禽製品における高病原性鳥インフルエンザウイルスの存在に関する文献から得たデータの概要(Beato(4)を修正)
製品 | 種 | ウイルス株 | 系 | 接種量 | 検出量 |
肉 | C | A/duck/Anyang/AVL-1/01 (H5N1) A/chicken/Pennsylvania/1370/1983 (H5N2) A/tern/South Africa/61 (H5N3) | E E E | 106 107 106 | 5.3‾5.5 2.2‾3.2 >4 |
T | A/turkey/Italy/4580/99 (H7N1) | E | 106 | 4.38 | |
D | A/duck/Anyang/AVL-1/01 (H5N1) A/goose/Vietnam/3/2005 (H5N1) A/Vietnam/1203/2004, A/ThailandPB/6231/2004 A/crow/Thailand/2004, A/egret/HK/757.2/2002 (H5N1) A/egret/HK/757.2/2002 (H5N1) A/duck/Vietnam/12/2005 (H5N1) | EN E E E E E | 106 106 106 106 105 107 | 3‾4 3 4‾6a
>2b 1.5 | |
卵 | T | A/turkey/Ontario/7732/66 (H5N9) H5N2 (Virginia/1985) | E N | 未報告 未報告 | 未報告 未報告 |
C | H5N2 (Virginia/1985) | N | 未報告 | 未報告 | |
DG | H5N1(株は未報告) | N | 未報告 | 未報告 | |
Q | H5N1(株は未報告) | N | 未報告 | 4.6‾6.2 | |
羽 | CT QF | A/chicken/Yamaguchi/7/2004 A/chicken/Miyazaki/K11/2007 A/chicken/Hong Kong/220/1997 | E | 105.8-6.2 | 未検査 |
D | A/chicken/Yamaguchi/7/2004 A/chicken/Miyazaki/K11/2007 | E
| 108
| 未検査
| |
T | H5N1(株は未報告) | N | 未入手 | 未検査 | |
肝 | D | A/chicken/Vietnam/12/2005 (H5N1) | E | 107 | 未報告 |
血 | C | A/tern/South Africa/61 (H5N3) A/chicken/Pennsylvania/1370/1983 (H5N2) | E E | 107 106 | 4 未報告 |
PG | A/turkey/Ontario/7732/66 (H5N9) | #E | 108 そこに2000ポンドの重量を量る人ですか? | 0 | |
T | A/turkey/Italy/4580/99 (H7N1) A/turkey/Ontario/7732/66 (H5N9) | E E | 106 #108.7 | 1‾5.8 2.7‾3.7 | |
| D | A/chicken/Vietnam/12/2005 (H5N1) A/turkey/Ontario/7732/66 (H5N9) | E E | 107 #108 | 未報告 0 |
種:C(鶏)、T(七面鳥)、D(アヒル)、G(ガチョウ)、Q(ウズラ)、F(ホロホロチョウ)、P(ハト)
系:E(実験感染)、N(自然感染)、E N(実験感染と自然感染の両方)
接種量:EID50/0.1 ml、#:EID50/0.5 ml、EID50:50%の孵化鶏卵が感染する量
検出量:log10 EID50/g製品、a:2週齢、b:5週齢
野外観察および実験研究は、H5N1 HPAIウイルスがカモ(Anas platyrynchos)肉から回収可能であることを報告した(39)。家禽肉におけるH5N1 HPAIの存在は、2001年に中国から韓国へ出荷されたアヒル肉の一部で検出された(39)。ガチョウからのH5N1 HPAI亜型分離株がアヒルの筋肉でも検出できることを李ら(27)が報告していたが、これらの研究は、アヒル由来のH5N1 HPAI株のみが筋肉に定着すること、ならびに感染初期でもウイルスが分離されることを示した(39)。実験感染させたアヒルの筋肉での定着は、感染した週齢と関係することが示された。この点に関して、Pantin-Jackwoodら(30)は、2週齢と5週齢の北京ダック(A. platyrhynchos)で4種類のH5N1ウイルスについて試験した。彼らの研究に共されたウイルスは、接種後2日目に2週齢の北京ダックの骨格筋から回収できた。これとは対照的に、一株のみが5週齢の北京ダックの筋組織で増殖可能であり、感染価も低かった(年齢依存性変動を示す)。
中国訳注で食肉用に飼育されていたコールダック(call duck; A. platyrhynchos var. domestica)の筋組織から高力価のH5N1 HPAI株が検出され、実験感染も成立した(17)。水禽類における不活化全粒子AIVワクチンの効果に関する別の研究所の調査で、実験感染させた北京ダックの筋肉へのウイルスの定着がH5N1 HPAI株を用いて検討された(5)。生きているウイルスが、接種3日後と4日後のワクチン未接種の筋肉サンプルから100%検出されたが、ワクチンを接種した鳥のサンプルでは全て陰性であった。
訳注: 原文では「日本」となっているが、引用文(17)「アジアにおけるH5N1インフルエンザウイルスの多数の亜系統の確立:世界流行制御のための意義(Establishment of multiple sublineages of H5N1 influenza virus in Asia: Implications for pandemic control)」は中国研究者による中国の出来事の解析であり、著者らの単なる誤記である。すなわち、英国から眺めると日本も中国も同じ場所にあるということだろう(日本国内でも遠方の地名を聞いて県名を間違うことは良くある)。 「筋肉中に生きたウイルスが存在し、実験感染も成立した」ということと、「その肉をヒトが食べると感染する」ことは全く別の事柄である。鳥インフルエンザは元々消化管感染であり、呼吸器感染が主体の哺乳動物とは感染機序が全く異なる。細胞にウイルスの侵入門戸となるレセプターがない限り、ウイルスは細胞内に侵入できない(すなわち、ヒトは食べても感染しない)。 この論文は、家禽製品の貿易を介してH5N1 HPAIが広がるリスクを検証しているものであり、現在は発生国からの輸入はOIE規則に基づいて即時停止される。本論文は、全ての家禽製品に感染性があるのかどうかを検証し、「家禽への拡散が起きないならばOIE規則を緩和しても良い」という意見の是非に応えようとするものである。したがって、肉に関する検証では「輸入国の家禽に感染する恐れがあることが改めて確認された」ということであり、現行のOIE規則を緩和する必要はないという結論になる。 |
卵
卵への最も高いウイルス感染経路は、放卵時に卵殻表面が糞便で汚染されることであろう。ただし、卵の内容物にAIVが存在することも、垂直感染によって発生し得る。SamadiehとBankowski(35)は、七面鳥において2種のウイルス株を用いてAIVの垂直感染能を調べたが、その株の亜型と病原性については報告されていない。この研究は、インフルエンザウイルスに感染した孵化鶏卵が生存し、孵化したヒナには赤血球凝集抑制試験で抗体が確認された。
鶏卵中のAIVの存在についての最初の報告は、1985年まで遡る。ペンシルベニア州とバージニア州における1985年のHPAI発生期間に、自然感染した鶏群から集めた卵の卵黄、卵白および卵殻表面にH5N2 HPAIウイルスが存在することを明らかにした(11)。卵殻、卵白および卵黄は、商用採卵鶏、繁殖用ブロイラーおよび繁殖用七面鳥の群れから採取した卵を採材した。採材した卵のほとんどは市場品質を備えていたが、一部(10%)はAI感染に起因する病変があった。卵殻表面は、滅菌綿棒で拭ってサンプリングした。卵の内容物(卵黄、卵白および卵黄・卵白混合)は、卵殻を消毒した後にサンプリングした。鳥インフルエンザウイルスは、鶏卵の卵黄、卵白および卵殻表面からのみ回収された。一般的に、ウイルスの回収は、卵黄や卵黄・卵白混合よりも卵白からが多かった。さらに、臨床徴候を示していない鶏群が生んだ卵からも低頻度で回収された。
七面鳥の卵におけるAIVの存在に関する報告は一つのみである。Narayanら(29)は、実験感染させた七面鳥が産卵した卵からH5N9 HPAIウイルスを分離した。ウイルスは卵殻消毒後の卵黄から検出された。しかしながら、米国でのH5N2 HPAI株による発生期間に、発生群が生んだ七面鳥の卵からウイルスは回収されなかった(11)。
アヒルとガチョウの卵を洗った液からH5N1 HPAIウイルスが分離された報告がある(27)。その卵は、2005年にベトナムからの旅行者から広州空港で押収したものだった。
一つの研究が、ウズラの卵におけるH5N1 HPAIの存在を記載している(33)。自然感染したウズラ(Coturnix coturnix japonica)の卵の内容物(卵白と尿膜腔液の混合液})に高力価のH5N1ウイルスが含まれていた。
羽毛
どのように苦痛ブルージーンズへ
羽毛におけるAIVの存在に関して発表された報告はきわめて少ない。糞便および汚染した埃を通して羽毛がウイルスに汚染される可能性がある。その他の汚染経路として、この感染が全身性であることも関連する可能性がある。H5N1 HPAIを経鼻感染させた鶏、ウズラ、七面鳥およびホロホロチョウの羽嚢上皮内に、接種後1日目にウイルスが検出された(31)。
成長期にとくに多彩な羽毛を有するコールダック(call duck)の羽毛にH5N1 HPAIが検出され、上皮(表皮の毛環から髄帽まで)の壊死が見られ、接種後3〜7日目に羽軸と羽枝の突起部に達した。壊死した羽毛のある上皮に免疫組織化学的にAIVが検出された(43)。同じ著者は、4週齢の飼育アヒル(A. platyrhynchos var. domestica)およびガチョウ(Anser cygnoides var. domestica)の羽毛と皮膚にH5N1 HPAI株ウイルスを検出したと報告している(44)。実験感染後のアヒルおよびガチョウの皮膚サンプルからのウイルス分離の試みが成功している。七面鳥の羽毛からのH5N1 HPAIウイルスの分離は、英国での2007年のH5N1流行の際に報告された(英国獣医研究機関、鳥インフルエンザとニューカッスル病の欧州標準研究所、M.J. Slomka氏の私信)。
鳥インフルエンザウイルスは、保存状態が良ければ、かなりの期間に亘って羽毛に生存し続ける可能性がある。ウイルスの複製が活発な期間に羽毛を脱羽した時、+4°Cおよび+20°Cで保管すると、それぞれ160 日間および15日間に亘って感染性ウイルスが回収された(45)。
感染した鳥から抜いた羽毛におけるAIVの特定は、羽毛布団やダウンジャケットに使用される羽毛の国際貿易の障害となるため主要な商業的意義を有する。
その他の製品
文化の多様性は、しばしば、様々な食生活によって反映される。様々な地域で様々な方法で作られた膨大な種類の家禽製品の消費は、ある国で普通に考えられることが別の国では同じようにみなされないことを意味している。したがって、国境を超える取引の完全な制御は、動物衛生や公衆衛生に影響する場合は決定的に重要な意味を持つが、問題を生じ易く、とりわけ生の家禽製品(たとえば、血液の腸詰・プディング)を消費する国で問題となる。
肝臓
H5N1 HPAIウイルス感染した北京ダックの肝臓で鳥インフルエンザのウイルスが検出された(5)。接種後3日目と 5日目に採取した肝臓サンプルからウイルスが分離された。このことは貿易上重要な意味を持ち、潜在的には、生や加熱不十分な肝臓を食べている地域においてヒトの健康上の問題となる。
血液
ある国では鳥の血が未調理で摂取されており、それが動物の感染源となり、さらにはヒトへの潜在的感染源となり得る。著者が知る限り、新鮮または凝固した血液は国際的に取引されておらず、したがって新鮮または凝固した血液の貿易または密輸を通してHPAIが侵入するリスクはきわめて低い。ただし、HPAI感染にはウイルス血症の段階があり、鶏(H5N2)、七面鳥(H5N9)およびアヒル(H5N1)の血液からHPAIが検出される理由となっている(36)。
鶏の血液に生きたウイルスを検出した2つの報告がある。Kishidaら(26)は、接種後1日目に鶏の血中にかなりの力価のH5N3亜型を検出したと報告している。ウイルス血症は、H5N2 HPAI株を接種した4週齢のSPF鶏で1〜3日目に検出されている(36)。H5N9 HPAIウイルスを口腔・経鼻接種した24週齢の七面鳥の血液から接種後16 時間と24時間目にウイルスが分離された(29)。ウイルス血症は、H7N1 HPAI株を実験感染(孵化鶏卵感染濃度中央値の対数1〜5.8)した七面鳥でも検出されている(38)。ワクチンを接種または未接種の7週齢北京ダックにH5N1 HPAIウイルスを実験感染させた後、未接種群でのみ接種後3日目と4日目にウイルス血症が証明された(5)。
(つづく 2011/12/14)
野鳥におけるH5N1ウイルス
野鳥と関連するHPAIが欧州で発生するリスクは、徹底的に検討されている(3)。野生の水禽類はLPAIウイルスの自然宿主と見なされているが(1)、家禽において高い死亡率の原因となるHPAI ウイルスは野鳥が保有宿主だとみなされていなかった。H5とH7のHPAIウイルスは、LPAIから発生する、すなわち家禽集団に一旦侵入し、適応することによって起こり、野鳥の中で発生するのではないと一般的に考えられている(1、2)。AIVの16種類のヘマグルチニン亜型(H1〜H16)は、野鳥において、稀な例外もあるが、不顕性感染または軽度の病気を引き起こすだけである。2002年以前は、HPAIウイルスは野生の水禽類集団からほとんど分離されなかった。AIVに感染した家禽集団と関連して分離された事例は少なく(15)、1961年に南アフリカ共和国のアジサシ(Sterna hirundo)においてH5N3 HPAI感染と関連して大量死があった事例が有名である(6)。HPAIの生態は、Asian H5N1 HPAIウイルスの出現と拡散とともに変化した。ジア、欧州およびアフリカに及ぶこのウイルスの拡散は、世界の38ヶ国で75種類以上の野鳥の死亡をもたらした(22)。死亡した渡り鳥からこのウイルスが分離されることは、HPAIの播種におけるそれらの野鳥集団の潜在的な役割を示している。
アジアで起きた前例のない状況は、純粋に野生の鳥集団へと感染を広げる結果となった。HPAIの地理的拡散における野鳥の役割は、広く議論されている。鳥の行動生態は、ウイルスが広がる能力に影響することによって、インフルエンザ感染の疫学を新たな方向に駆り立てた。野鳥が特定地域にAIVを侵入、拡散または維持するリスクは、以下を含む多くの要因と関連している。
● 感受性動物種
● 対照となる個体の数と年齢
● 出発地と目的地の特性
● それらの種の地域的(季節的)密度
● 繁殖、渡りおよび非繁殖季節を通した当該動物種の群居性(3)。
これまでにAsian H5N1 HPAIが分離された野鳥のほとんどが死んでいたか瀕死のいずれかだったので、ほとんどのアジアの渡り鳥におけるこの病気の潜伏期間は判っていない。したがって、対象動物種の間における大きなバラツキのために、ウイルス侵入の実際の可能性は推定の域でしかない。たとえば、感染してからその動物種が飛行し得る距離に関する完全なデータは存在しない。
状況を明確化しようとする試みとして、HPAI感染に係る野鳥の感受性および渡りでH5N1 HPAIをかなりの距離運ぶ能力についていくつかの研究が行われている。実験感染によって、鳥の多くの種が感染可能であり、様々な臨床状態が記録可能であることが示された。数種の鳥は、感染しても生き残り、明らかな病状を示さないか、または限定的な期間と程度で臨床徴候を示してH5N1 HPAIを排出するが(10、16、24)、その他の鳥は死亡した(23、36、37)。実験研究は、鳥類が同じ目ですら種によって生来の感受性を大きく異にすることも示した(24、31、32)。さらに、野鳥の免疫応答と免疫期間についてはほとんど知られていない。
欧州では家禽の感染報告されていないが感染した野鳥が発見されており、H5N1の広がりは、それまで発生がなかった地域へ野鳥がウイルスを運び得ることを示唆している(8)。H5N1 HPAIの拡大の解析に基づくと、アジアへウイルスを持ち込んだ21件中9件はおそらく感染した家禽の移動によって引き起こされた。さらに3件の侵入は、野鳥と関連した可能性が最も高い。欧州では、23件中20件の侵入は野鳥の渡りと関連付けられた(23)。全世界の広範な野生動物の監視の努力にもかかわらず、H5N1 HPAI感染の検出は稀である(9、34)。したがって、感染を運ぶ野鳥のほとんどは臨床症状を示し、症状が出る前や発症直後の段階でのみ感染を広げると思われる。さらに、2006年と2009年の間に採材した野鳥からのH5N1株数は減少しており、野鳥はH5N1の流行サイクルを一般的に維持することはできず、家禽におけるある種の亜型ウイルス感染の広がりの結果として感染していると仮定できるかも知れない。
ナイジェリアにおけるH5N2 HPAI感染した鳥の移動についての詳細な研究は、実験データから野鳥の感染を推定することの困難性を示している。感染したが元気な鳥(シロガオリュウキュウガモ[Dendrocygna viduata]およびツメバガン[Plectropterus gambensis])が衛星テレメトリによって追跡された。この研究は、それらがHPAIウイルス感染しても生き残ったと判定した。これは健康な野鳥におけるHPAI遺伝子型ウイルス感染の珍しい知見である(22)。しかしながら、この研究で追跡した鳥の一羽が途方もない距離を飛行し、検査でウイルス陽性が確認されてから18日後でもなおHPAI陽性であることが判ったように、ウイルスの亜型によってきわめて多様性があると思われる。他方、H5N1 HPAIウイルスを接種した水禽類において記録された病気とウイルス排出の期間は7 日以内である。
ペットおよび趣味で飼育している鳥
野鳥の移動に加えて、家禽と家禽製品の貿易ならびに外来/狩猟用の鳥の放鳥はH5N1 HPAIの大陸から大陸への拡散の役割を果たしている(25)。
2004年と2005年に発生した欧州へのH5N1 HPAIの2件の侵入は、AIウイルスの拡散にヒトが影響した事例である。最初の例は、タイから密輸しブリュッセル空港で押収された鷲がH5N1ウイルスに感染していることが発見され、そのウイルスはタイでの分離株と遺伝学的に類似していた(40)。二番目の例は、中国台北から輸入し英国の検疫所に留め置かれたケージに入った捕獲鳥の死亡を検査した際、H5N1 HPAI 感染していることが判明した。H5N1 HPAI ウイルスはフサエリショウノガン(Chlamydotis undulata macqueenir)でも報告されており、サウジアラビア王国から英国へ輸入後に臨床症状を呈した(28)。
(つづく 2011/12/16)
結論
大陸間のHPAIの拡大は、H5N1 HPAIの世界流行以前には決して見られなかった。過去にも国境を越えた広がりが発生したけれども、最近進行中の出来事は過去の発生規模を遥かに凌いでいる。その基本的理由は、過去のHPAI感染は風土病化しなかったし、殺処分政策を通して制御され、水禽類や野鳥への波及は散発的に留まっていた。
野鳥における散発的な感染は以前も起きていたが、清浄な国や地域へのHPAIの侵入はH5N1流行以前に野鳥を介して決して起きなかった。
かなりの事例において、野生や家禽の集団への侵入が水禽類の渡り鳥を介して起きていると思われる。HPAIは様々な動物種に容易に感染し、全身感染することから多くの家禽製品から検出されるが、生きている家禽や家禽製品を介して国境を越えて広がった報告例はほとんどない。たとえそうでも、鳥インフルエンザの存在は発生国からの製品の輸入禁止につながってきた。このことは、輸出国が発生していない地区割り(zone)や区画化(compartment)をできない場合に深刻となる。さらに、既に広範な感染が発生している資源の乏しい国々において、家禽製品や野鳥の合法的または違法な取引と関連した発生が未報告に終わっている傾向がある。
全世界の広範な野生動物監視活動は、健康の野鳥でまれにH5N1 HPAIウイルス感染を検出してきたが(9、22)、感染源としての野鳥の意義およびH5N1 HPAIウイルスの疫学への影響は、まだ完全に確立されていない。これまでのところ、野鳥の監視は鳥インフルエンザウイルスの世界的拡散において渡りの経路の役割について理解を深めている。国への侵入のリスクを確定するための即自的手段としてそれが使えるかどうかは実証されていない。野鳥の移動によって特定のHPAIウイルスが侵入するリスクがどの程度であれ、それが伝播と拡散に重要な役割を果たしている可能性を示す証拠がある。また、H5N1 HPAIの遺伝学子と抗原の性状の変化は、様々な特性を持つ新しいウイルスの出現に発展するという我々の理解を正当化している。
数ヶ国で家禽の発生がなく感染野鳥が見つかっている欧州におけるH5N1の拡散に関する現在の知見は、それまで発生がなかった地域へ野鳥がウイルスを実際に運び得ることを示唆しているが(8)、それが直ちに家禽に広がってしまう状況では必ずしもない。
本論文で紹介したデータは、様々な家禽製品からAIVが回収されることがあることを示している。家禽製品におけるAIVの存在は、病原性、組織親和性および特定の身体組織に定着する能力を含めて、ウイルス株の特性によって影響される。
HPAIウイルスが上述の製品で検出されるけれども、データはまだ断片的であり、家禽製品によって特定の地域や宿主に侵入するリスクを適切に査定するために、より広範かつ協調的にさらなる研究を行う必要がある。
高病原性鳥インフルエンザ株は家禽肉に定着できるので(26, 36, 39)、その製品を介した伝播と拡散のリスクをもたらす。鳥類とくにアヒルの骨格筋におけるH5N1 HPAIの存在に関するさらなる情報が入手可能である(5、27、30、43)。骨格筋におけるH5N1 HPAI株の存在は、水禽類の病気を引き起こすことと必ずしも関連していない。したがって、臨床症状がなくても、筋肉からウイルスが回収されることを排除するものではない。
家禽肉でのHPAIウイルスの検出率は感染初期段階でより高く、発症前や病初段階で集めた肉の貿易と関連するリスクが高いことを示唆している。アヒルと七面鳥においてウイルス血症と筋肉へのウイルスの定着を防ぐ予防接種の効果に関する2つの実験研究が利用できる(5、38)。鳥インフルエンザの制御戦略に予防接種が含まれているので(20、29)、このことが関連する。それらの2つの実験結果は、予防接種した鳥の筋肉や内臓からウイルスが回収できなかったことを示している。ただし、この情報は実験室の条件下で得られたものであることから、野外の条件で予防接種した鳥から得た筋肉でのウイルスの存在は排除できない。
卵に関しては、鶏、アヒルおよびウズラの卵内容物ならびに卵殻の拭き取りや洗液からHPAIウイルスが検出された(27、29、33)。鳥インフルエンザウイルスは、糞便汚染や垂直伝播によって卵内に入る。AIVの垂直伝播について発表された研究の数が少ないことに言及しており。
その他の製品については、未処理の血液、内臓および羽毛は自然条件と実験条件下でウイルスを含んでいることが示されている。その他の製品におけるAIVの存在を査定するために、さらなる研究が必要である。
結論として、データの不足は、H5N1の進化と生態・疫学状況と相俟って、野鳥と家禽に継続的な関心と的を絞った発生動向調査を必要としている。そのことは、野鳥で循環している低病原性ウイルスが家禽に一旦入ると予期せずHPAIウイルスが誕生することがあるので、必要とされる。家禽業界における厳格な生物学的安全対策の適用は、野鳥から家畜へのAIV伝播を防ぐために不可欠である。さらに、OIEの国際基準の遵守は、H5N1亜型ウイルスを含め貿易を介して清浄な国または地域へ侵入するHPAIのリスクを減らし続けるだろう。
参考文献(省略)
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