2012年6月1日金曜日

5月 2012


S. 6

A.慨説Allgemeinesおよび形態学的なことMorphologisches

 動物と植物は細胞Cellula, Zelleとよばれるところの,多くは顕微鏡の力をかりてやっと見ることができ,何れも相似た性質をもつところの基本単位から構成されている.

 定義:細胞は生活物質の1つの塊であって,細胞核Zellkernと細胞体Zelleibとよりなり,この塊は形態の上からも機能の上からも生物体の基本的な単位とみなされるのである.

 成長を遂げた生物体では同一の組織内の細胞は多くの場合たがいに数多くの突起で結合している.もっともこの突起の数が少ないこともある.また異なる組織に属する細胞相互のあいだにも融合があって,かくして高度の機能的全一性がえられる(例えば神経細胞と筋細胞もしくは上皮細胞とのあいだ).しかしこの事実は独立した単位であるという性質を個々の細胞からうばいさるものではない.(Heidenhain, Plasma und Zelle.1907-Boeke, Med. Klinik.1925.-Patzelt, Z. mikr.-anat. Forsch., 3. Bd.,1925)

 細胞がもつ高い一般的な意義は次に述べる概括からわかるのである:

1. 植物および動物のからは細胞あるいは細胞のつくったものからできている;

2. 植物および動物の体は細胞から出発する.その細胞は卵細胞と精細胞とである;

3. 細胞は生活機能を担うものである.すなわち生命の単位Lebenseinheitである(ウィルヒョウR. Virchowの細胞病理学Cellularpathologie);

4. 生物の系統において最も低い位置にあるものは単細胞の生物(Unicellulaten, Protisten)である.それより高等な生物の体は細胞が集まってそれをなしている.すなわち多細胞生物(Multicellulaten)である.これに後生殖物Metaphytenと後生動物Metazoenとがある.

 おのおのの細胞は細胞体ZelleibとZellkernとからなる.

 細胞膜Zellmembranは細胞の本質的なものに属しない.植物の細胞(図1)ではじようぶなセルローズの膜で囲まれているから細胞膜という名前が適当であるが,動物の細胞では特別な膜を探し求めても多くのばあいむだである.そこでは普通は細胞体の最も表層のところが密になっているにすぎない.

 むかしHermann Lotze(Allgem. Physiol. d. Körperlichen Lebens, Leipzig,1951)が疑問としたことが今日でもやはり大きい疑問としてあらわれてきている.それはわれわれの知る限りのあらゆる生命が形の上で細胞と結びついているか,あるいはその他の形で起こりうるのではないかということである.われわれの知るすべての生命が原形質と核物質に結ばれているということができる.最も小さい生物diekleinsten Lebewesenである細菌でさえも細胞体の性質を示す部分と核の性質を示す部分,つまり2つの成分をもつのである.だからわれわれは細菌を特別な種類の細胞(最小細胞Minimo-Cellulae)と考えなければならない.


"疲労Technologies、Inc。は。 "

 これに反して瀘過性病原体すなわちウィルスの各種は人,その他の動物や植物でたくさんの数(100以上)の伝染病(例えば天然痘,狂犬病,ハシカ)をひきおこすものであるが,もはや細胞ではないかも知れない.何となれば最も小さいウィルスは1個のタンパク質分子よりも大きくはない.それは細胞になる前の有機体であって,その最も簡単な種類のものは核タンパク質からのみできていて,複雑な種類のウィルスはその他にリポイドと含水炭素を含んでおり,その組成からして細菌と違っていないものである.

[図1]植物細胞(Sachsによる.)

S. 7

 細胞の原形Grundformは球形である.しかし後生動物の体をなしている細胞の多くはその他の形を示している.楕円に近いもの,錐体すなわちピラミッドの形のもの,柱状,円板状,星状のものがあり,その各々にも千差万別があるといえるのである.

 大きさGrößeは平均すると約20µである.血球やリンパ性の細胞では2~6µのものまであり,微生物のあるものはもっとそれより小さい,他の細胞ではひじょうに大きくなっていて,例えば魚類,両棲類,鳥類の卵のように,空間の三次元において何れの方向にも大きいものがあり,あるいは神経細胞のように,特に長さだけがはなはだ延びていることがある.神経細胞はその軸索突起をもって脊髄から手や足の指まで達しているので,その長さが1メートルもある.

 いろいろな種類の細胞について,細胞体とかくの体積の比をしらべてみると,たがいに一定した値になる.これを核と形質の比価Kern-Plasma-Relationという.

[図2]原形質の蜂巣状構造を示す細胞模型図

[図3]コウモリ卵巣にて成熟しつつある卵.原形質は小梁状の構造をしっめし,そのあいだに液胞をもっている.切片標本による.×330. (Rauber, Morph. Jahrb. VIII.,1883, Neue Grundlegungen usw. より.)

I. 細胞体Zelleb

 化学的および物理的組成:細胞体は原形質よりなる.

 原形質Protoplasmあるいは細胞形質Cytoplasmaというのは化学的に単一な物質の名前ではなくて,1つの形態学的な概念である.それはいくつかの蛋白体と(とくにプラスチンPlastinならびにグロブリンglobuline, アルブモーゼAlbumosen,アルブミンAlbumine),多量の水分および数種の塩基からなっている.そのほかに同化性および異化性の物質代謝産物が加わる.反応はアルカリ性であって,みな一様で,粘い液のような性質をもっている.水によって膨化し,熱によって凝固する.


発見草原モンタナ州グレートフォールズ

 構造:だいじな問題としては原形質ではその各成分が細胞のなかで溶液の形のみ存在し,つまりその各々が密に混合した状態なのか,もしくは原形質に何か特別の構造があるかということである.むしろその構造がどんな種類であるかについて議論が分かれている.すなわち海綿様の構造であるというもの(Fromman, Schmitz, Leydig),蜂巣状となすもの(Bütschli),あるいは細かい糸の構造とその間を満たす物質からなるという人がある(Flemming).

S. 8

 この3つの学説のほかになおAltmannの独特な顆粒説がある.その何れが正しいかを決定するのはその研究の困難からしてはなはだむつかしいことである.しかし,蜂巣説の考え方が次第に大きい力を得つつある.その一員は生理化学的の事実がこの説に都合よくあてはまることである.

 Bütschliによれば原形質の構造は泡様schaumigであって,蜂の巣を連想させるものであるという.しかし,この説によっては原形質の構造に関する問題のほんの一部が答えられているにすぎない.蜂の巣の壁をなす索や板がどんなこうぞうであるかについて問題がまた戻ってくるのである,そいう超構造Ultrastrukturは比較的近年にやっと研究されてきた.(Bargmannの著Lehrbuch der Histologie, Bd. Iを参照されたい.)

 顆粒は原形質内の構造として常にみられるものである.これは生きている細胞において(Ehrlich , Arnold, Fischel)メチレン青,中性赤そのほかの数多くのいわゆる生体染色用の色素によってあらわすことができる.しかしまた,顆粒にもいろいろの種類が区別できる.顆粒は総括して微小粒体Mikrosomen,さらによい名前では形質粒体Plasmosomenとよばれる.

 生体染色によってあらわされる顆粒と区別すべきものは固定剤のためにアルブモーゼが沈殿することにより人工的にできた顆粒である(A. Fischer, Fixierung usw. des Protoplasmas. Jena,1899).Altmannが記載した顆粒の一部は生きている細胞には存在せずして,顕微鏡でしらべる目的で細胞を薬品で固定したときに人工的につくられたものであることが確かである.


大きな滝オークレア、ウィスコンシン州

 微小粒体が相ならんで糸の形をしているのを最初Brunnが1884年,La Valette Sr. Georgeが1886年に記載し,それが後にミトコンドリア(糸粒体)MitochondrienあるいはChondriosomenとよばれることになった.このものは成体および胎児の体の多くの細胞に証明されている(Duesbergの文献をみられたい).Mevesはミトコンドリアをあらわすのに適当した方法を用いたときにつよく染まるが,個々の顆粒からなることがはっきりしないような糸状および棒状のものを粒杆体Chondriokonten(κουtός,棒のこと)とよんだ(1907).その後にMevesはこれらの構造物を細胞に独特な成分として大いに重要視し,原形質の遺伝を担当するものとみなして,形成顆粒Plastosomenと名づけた.その顆粒状のものをPlastokonten(形成杆体)とよんだ.それより前に用いたChondriokontenやChondriosomenという� � �称はやめたのである.Mevesは次のごとく述べている(Meves, Arch. mikr. Anat.,85. Bd.,1914, S. 298)."形成粒体は独特な性質の顆粒あるいは糸状のものであって,すでに生きている細胞でたくさんに見ることができる.

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それは胎児ではすべての細胞に存在し,成体でも数多くの細胞に証明される".

 Duesberg, J., Merlel und Bonnet, Ergebnisse, 20. Bd.1912.-meves, Arch. mikr. Anat.,94. Bd.,1920.

 細胞体のもつ特殊な器官としては1. 中心小体とその周りの中心球,2. 内網装置,3. 分泌細管および分泌液胞である.

[図4]形成杆体Plastokonten. 孵化27時間(8対の原節を有する)ニワトリの胎児の神経管Medullarrohrの外胚葉細胞群.

[図5]形成粒体Plastochondrien.1個の内胚葉細胞.

1. 中心球Zentrosphareと中心小体Zentrolkorperchen

 中心球は多くは円い形をした細胞小器官であって,原形質のなかにあるが,もともとはおそらく細胞核からできたものであろう.これは色素に対して特別な反応を示す細胞形質の1塊であって,旧形質Archoplasma (Boveri)とよばれ,その中にやっと認められるほどの小さい,そして光をつよく屈折する粒子があって,これが中心小体Zentrolkrörperchen (Flemming,1891)あるいは中心子Centriolum (Boveri,1895)とよばれる.中心子が1つだけでなく,それが2つあるいはそれ以上もあることがはなはだしばしばである(図8,9,10).中心小体のすぐまわりをとりまいて明るい幅のせまい部分があり,その外側に暗くて顆粒に富む.比較的に幅の広い部分があって,これが細胞体の残りの部分に直接つづくのである.このくらい部分がSphäreとよばれる(図6).中心球から周囲にむかってAsterとよばれるつよい放射状のすじがでている.このすじが上部の暗い部分を通って細胞体のなかにつづいている(図7).中心球はそれ自身の分裂のほかに細胞核の分裂や細胞体の分裂を開始させるという大事な役目をもっている.つまり細胞分裂のための器官である.


 それ故に中心小体はまた"運動の中心"Kinozentrumともいわれる.これに対して核は"物質代謝の中心"Chemozentrumということができる.しかし留意すべきことは,中心小体がなくても原形質の運動は起こりえることである.それは切りはなされた偽足が,かなり長い間運動を続けることによって示される.

 中心小体は細胞分裂にあたって初めて出現するのではなくて,分裂以外の休止期にも存在する.休止期の細胞に中心小体が見られるものの例とそして白血球(図10,16),上皮細胞,結合組織細胞(図8,9)をあげておこう.しばしば核の縁にへこみがあって, そこに中心小体が存在している.

 中心子のは変化に富んでいる.動物の種類や組織の種類の違いによって2つあるいは3つの多くは円い形の中心子がみられる.2つのときは双心子Diplosomenという.数はおそらく時間的にもちがうのであろう.中心小棒Zentralstäbchenというのは細長くのびた棒状の中心子であって,最初にZimmermannによって或る硬骨魚の黄色い色素細胞においてみつけられて,その後ほかの学者たちによっていろいろな動物の雄の生殖細胞でもみられたのである.

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 中心球あるいは中心子の何れにいっそう重要な形態学上および生理学上の意味があるかは,なお決定していない.Mevesおよびその他の人びとは中心小体すなわち中心子の存在に重きを置いている.その理由は組織細胞分裂にあたって,中心小体はよく見えるが,球は多くの場合に存在しないことである.

 歴史:Edurd van Benedenが1876年に初めて二杯虫類Dicyemidenの卵において中心球を発見し,ついで1883年に蛔虫Ascarisにおいてみた.-Heidenhain, M., Plasma und Zelle. Jena,1907.-Henneguy, La Cellule.-Hertwig, O., Die Zelle. Jena. G. Fischer.-Wilson, H. V., The Cell.-Mollendorf, W. von, Handbuch der mikr. Anat. Berlin,1926~52. )

[図6]中心球の構造を示す模型図

[図7]中心球と星の微細構造(Erlanger,1897による模型図.)

[図8]1つないし3つの中心子をもつ中心球3~4才のネコの角膜の内境界膜に接する内皮細胞.(E. Ballowitz,1900)

[図9]2つの中心子をもつZentrophormiumネコの前眼房の内皮細胞1個.(Ballowitz,1900)

[図10]サンショウウォの幼生の腹膜よりえられた白血球.中心小体は明るい部分に取り囲まれて,更にその周囲に放射状の球Sphäreがある.(W. Flemming)

[図11]中心小棒Zentralstab,すなわち棒状をなす中心小体,と2個の核.硬骨魚Sargus(棘鰭類に属する)の黄色の色素塊にてみられたもの.(K. W. Zimmermann)

2. 内網装置Binnengerust, Endopegma 1)

1)細胞内の足場(建築のときに組み立てる)の意.(小川鼎三)


 内網装置は前にはBinnennetz (Kopsch,1902)とよれば,いまでは多くのばあいゴルジ装置Golgi-Apparatとよばれるが,Binnengerüst, Endopegma (Kopsch,1925)というのが最もよいと考えられる.これは脊椎および無脊椎動物のすべての細胞に存在する細胞器官である.

 以前に"副核"Nebenkernとよばれたものは内毛瘡土地,細胞体の一部でその網のあいだにある部分を合わせたもので,ときには中心球もそれに属している.

 形態:内網装置は成長した脊椎動物の細胞では多くの場合に最大いろいろの円柱状の小梁を組み合わせた形であって,それが糸毬状をなし(図12),あるいは中空の球の壁をなしている(図9,13).



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